トランスジェンダージャパン元共同代表の逮捕報道を受けての声明
去る2024年3月14日、一般社団法人トランスジェンダージャパン(以下、TGJP)の元共同代表である浅沼智也氏が、強制わいせつの容疑で青森県警に逮捕されました。一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェは、この報道がSNS等で拡散される中、本件被害者に対する二次加害や攻撃・脅迫・侮辱が再び繰り返されることを強く懸念し、刑事司法の手続きとは別に、私たちが取り組み続けなければならない問題が残されていることを広く共有することを目的に、浅沼氏およびTGJPがこの間弊団体に行ってきた対応を公表することにしました。
本件被害者による告発がなされた2023年10月7日以降、弊団体は、被害者を支援する立場からこの問題に関わってきました。当初は、TGJPが被害者の告発に真摯に向き合って反省し、組織として適切に対応することを期待していました。しかし、それが叶わないと判断するに至ったため、10月25日、弊団体公式サイトにて、TGJP共同代表(当時)に対し性暴力の告発があったことを公表するとともに、TGJPが、団体としての責任を果たさないままである旨の声明文を公開しました(*1)。また、11月3日に浅沼氏がX(旧Twitter)やFacebook上に、自身に向けられた告発を否定する内容の文章を掲載した(*2)際には、被害者に反論声明を掲載する場を提供する(*3)などしてきました。
これに対し浅沼氏は、11月15日付けの内容証明郵便にて弊団体に対し、こうした対応を「名誉毀損」だと主張し、ふぇみ・ゼミ公式サイトに掲載された被害者による反論声明の削除と謝罪文の掲載、賠償金30万円の支払いを突然求めてきました。また、同通知書において、それらのうちいずれかがなされない場合、弊団体を刑事告訴する旨の通知を行いました。さらに、弊団体が浅沼氏の要求に応じないことがわかると、今度は警察を介して、当該記事の削除や当該記事の扱いについて話し合いの場を設けることを求めてきました。
他方、TGJPは、被害者による告発がなされた当初は「告発の内容とは一部食い違う内容はあったものの、行為そのものを行ったことは認め」、と浅沼氏が性暴力に係る行為を行った事実を認めた旨、述べていました。弊団体の運営委員や団体宛てに送ってくるLINEメッセージやメールの中でも、浅沼氏のことを「加害当事者」と記述していました。しかし、その後TGJPは、「弊団体(TGJP)は浅沼智也が性暴力を行ったことを認めたことはありません」と主張し、また、12月28日にTGJP公式サイトに公開された文章(*4)では「「性暴力があった」という事実認定をしたことはありません」と公言する他、「性暴力」についての事実認定ができるのは司法機関のみであるという認識を表明しています。
加えて、今回の浅沼氏逮捕の報道に際しTGJPは、浅沼氏は昨年「10月31日を以ってTGJP共同代表の任期満了を迎えて退任しました」と発表しています(*5)。しかし、私たちが知る限り、TGJPは自身の公式サイトやSNSアカウントにおいて、これまで一度も浅沼氏の退任を発表したことはありません。昨年12月28日に公表された声明においても、浅沼氏が退任したという事実は記されていませんし、弊団体に対し、浅沼氏の退任を通知してきたという事実もありません。
なお、TGJPも弊団体に宛てて、弁護士を介し、12月27日付けで内容証明郵便を送ってきています。その内容は、弊団体が東京トランスマーチ2023への団体賛同の取り下げを発表した声明の中で「TGJPの名誉や信用を毀損する内容を公表した」と主張し、損害賠償や謝罪文の掲載を要求するものです。
過去5ヶ月間で起きたこれらの出来事は、性暴力という深刻な人権侵害が生じた時、社会運動団体が組織としてそれをどう受け止め、どう対応すべきなのか(あるいは、どう受け止め、どう対応してはいけないのか)を私たちに問いかけています。
性暴力を個人間の問題として捉え、司法的に解決すべきという理解は、この問題の矮小化に他なりません。この点、性暴力は法的に認められる範囲がとても限られており、これまでの性暴力との長い闘いの歴史において、法適用の範囲を拡大することこそが多くの被害者が取り組まなければならなかった課題でした。そして、法的に被害認定がなされたとしても、司法的な手続きは、被害者個人に極めて大きな負担を強いるものです。
他方、性暴力を個人的な問題と捉え司法のみに委ねようとする問題の矮小化は、被害者の訴えに耳を貸さず、性暴力の問題を組織の文化に深く関わる問題として考えることを妨げ、組織としての責任をあいまいにしたり無効化したりすることにつながります。したがって、人権問題に関わる社会運動団体には、性暴力に対する理解をアップデートして被害者の声に耳を傾け、そこで訴えられている内容に真摯に向き合って理解し、応答する努力が求められるはずです。
同様に重要なのは、上記した性暴力に関する矮小化された理解は、立場表明を回避し様子見を決め込む傍観者を増やして被害者を孤立させる一方、被害者に対する二次加害をのさばらせて被害者を追い詰め、問題を深刻化させていく側面があることです。実際、浅沼氏逮捕の報道があった現在も、本件被害者に対する二次加害は続いています。つまり、性暴力を告発した人を孤立させ、過剰な負担を強いる構造は、今も残されたままなのです。こうした構造を変化させていくことこそ、社会運動団体が真剣に取り組むべき課題ではないでしょうか。性暴力に関する構造的理解を深め、告発した人を追い込んだり追い詰めたりするのではなく、支援していく文化や仕組みを醸成していくことが、すべての性暴力被害者にとっての正義につながるはずだと考え、私たちは今後も被害者とともに、性暴力を許容する文化と闘っていきます。
2024年3月21日
一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ 運営委員一同