【感想】ポスト#MeTooの反性暴力運動 第一回「ジャニーズの性暴力問題」②「ポストMeToo時代に海外にいる中国フェミニストは何ができるか?」Kokoさん感想

ポスト#MeTooの反性暴力運動」講座の第一回として、8月16日に対談「ジャニーズの性暴力問題」を開催しました。Kokoさんからの感想レポートです。

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「ポストMeToo時代に海外にいる中国フェミニストは何ができるか?」

KoKo

 私はKoKoと言います。中国大陸出身のフェミニストで、MeTooについてずっと関心を持ってきました。アジアのそれぞれ異なる国家制度、社会背景の下でMeTooがどのように展開しているのか知りたかったのです。これまで、日本では、多数の被害者が名乗り出る大規模なMeToo事件はそれほど多くなく、実を言えば日本のMeTooは「運動」とはいいがたいのではないかと思ってしまったこともありました。ですが、2023年のBBCドキュメンタリーが被害の一端を暴いたジャニーズの性加害事件は、日本のMeTooの重要な出来事であり、私に日本のMeToo運動を深く理解するきっかけを与えてくれました。

 ジャニーズの性加害事件は、長期にわたり、被害範囲は広範で、非常に多くの告発者が現れて、社会の注目を集め、男性の性暴力被害、子どもに対する性虐待などについて議論をかきたてました。ふぇみ・ゼミは「ポスト#MeTooの反性暴力運動」連続講座を企画し、第一回のスペシャルゲストとしてジャニーズ性加害事件の二人の被害当事者・平本淳也さんと中村一也さんをゲストに招きました。マスメディアの第三者的な記述を通してでなく、直接被害当事者に出会う経験は、私にとってとても大きな影響を与えました。

(1)事件の背後の具体的な事実と被害者に触れるということ

 会場に足を運んで本当に良かったと思ったのは、事件の背後の具体的な真実を理解することができ、生身の人間としてのお二人に出会うことができたことです。

 平本さんは長い闘いの中での心の動きをお話しくださいました。この問題をメディアが報道しない中で、自ら本を出版し、35年にわたって訴え続けてこられ、2019年になってやっとBBCがジャニーズの問題についてドキュメンタリーを制作を始めたこと。それなのに新型コロナウィルスの流行によってすべてが不確実になってしまい、本当に放送されるのか? いつ放送されるのか? ジャニーズの性加害問題について社会は今度こそ関心を持つのか? 様々な思いの中で待つしかなかった焦り、長年にわたる言葉にしがたい本物の苦痛を、会場にいて私は感じました。当事者がもがき、様々な模索をせざるを得なかった姿を見て、構造的な性暴力というものが何なのかわかった気がします。メディアの記事や映像だけでうまく説明できるようなものではないのですが、現場でご本人のお話を聞くと、とても直接的に伝わってくるのです。

 今年の4月以降、ジャニーズの性加害についての報道は徐々に増えてきました。現在23人が被害を告発しています。8月になると国際的な関心も高まり、国連人権委員会が被害当事者に聞き取りをし、事務所と日本政府に救済を求めました。ですが一体、どのようにしてジャニーズの性加害が社会問題になったのでしょうか? 背後で被害者がどれほどの努力をしていたのでしょう? 日本の主流のマスメディアはほとんど報じません。今回の講座で私は平本さんのお話を聞いて初めてこうした動きは、性加害問題が日本国内できないと知った被害者たちが、海外から圧力をかけるために、2019年のBBCの取材を受け、国連と連絡を取り、一歩一歩血と汗で勝ち取って来た成果なのだと分かりました。

 被害者たちへのインタビューや聞き取りは毎回長時間にわたります。ですがメディアで報道されるのは数分の断片です。ヒアリングをしても大きな権力を持っている議員や官僚からのフィードバックは少なく、ヒアリングの内容が本題からそれてしまうこともあるそうです。平本さんはジャニーズ性加害問題当事者の会を設立して以後、多くの被害を訴える人からの連絡をもらったとも話しています。被害当事者の会は、支援されるだけではなく、自ら支援者にもなっているのです。また、特に私が印象深かったのは、平本さんが当事者の会の誰かが倒れたら、別の人がそのバトンを受け取ってつづけていけるとも話していたことです。感動すると同時に、この人たちはメディアの報道で見ているような単なる被害者ではなく、沈黙を打ち破った勇敢な人たちなのだと思いました。当事者の会の人たちは男性の性暴力被害について問題を提起し、子どもへの性加害問題に取り組むアクティビストであり、他の被害者の話を聞いて支援をしていました。今回の講座は、私に、被害者という一面的なレッテルを超えた、現実を教えてくれました。

(2)フェミニズム・アクションをしよう

 海外在住の中国のフェミニストは、どうやって運動したらいいのだろうと、私は日本にきてからずっと悩んでいました。今回の講座という運動に参加して、その答えが分かったと思います。オフラインで、様々な背景をもった人と集まり、色々なグループのアクティビストと手をつないで、インターセクショナルなテーマに関わっていくこと、それでこそ社会の変化を起こすことができると思います。

 MeToo運動が始まってから、中国大陸ではフェミニズムに目覚める集団的経験が起きています。インターネットの発展はコミュニティの範囲を広げました。勇気づけられることに、豆弁、レッドブック、WeiboなどのSNSには多くのインターネット・フェミニストのコミュニティが生まれています。ですが、ネットフェミニズムには多くの限界と問題もあります。”打拳”(ネットフェミニズムの意)フェミニストと、運動に関わるアクティビストとの間には大きな溝があります。女性に関するテーマについてネットでどれほど議論が盛り上がろうと、制度を変えることは困難です。王笑哲が書いているように「異なる立場のそれぞれのアクティビストが、手をつなぐことが難しくなっていることこそ、一番の困難かもしれない」のです[1]

ですが、私は海外にいるフェミニストこそ、もしかしてこの断絶を埋め、窮状を打開することができるのではないかと思います。私たちは日本で、様々な日本社会の運動に参加し、現地のインターセクショナルな問題を理解し、共感し、様々なアクティビストと関わって連携する経験を積んで、フェミニズム・アクションを豊かにすることができます。

今回の講座の会場を訪れた人たちは、様々な年齢層の性加害問題に関心を持つ人たちでした。クィアな人もいれば、様々な国から来たフェミニストも、様々な運動団体の人も、ジャニーズのファンさえ[2]来ていました。そうした人たちが共に集まり、Q&Aでお互いにやり取りをする姿をみて、私は奇妙な一体感を感じましたし、今後の自分の運動の方向性を確かめることができました。

 

 デモなどに比べ、講座というのは参加のハードルが低く、簡単に参加できますし、参加リスクも少ないです。でも、講座の運動は意識を変え、社会のカルチャーを変えるものです。講座に参加する前に、私は多くの資料を集めて色々なことを考えました。学校での性教育をもっとおこなえばいいのではないか? 性暴力の知識やとりあげ方を人々に啓発し、性暴力を防止する法制度とガイドラインなどを作ればいいのではないか? その後に、ゲストの平本さんのお話を聞いて予防対策よりも大事なのは、社会が被害者を受けとめられるか、被害者の話を聞きたいと思う人がいるかどうか、被害者を理解し信じる人がいるかどうかだと思いました。被害者を信じる社会的な文化がなければ、被害者は永遠に語ることが難しいし、法的な手続きをとろうとすることもできないでしょう。法制度と現実のカルチャーや社会意識の差を埋めることこそ、私たちがしなければならないことです。

 最後に、去年読んだ本のタイトルでこの文章を終えたいと思います。『ハッシュタグだけじゃ始まらない』。ネットの中にとどまっていては社会を変えることはできません。運動に参加しましょう! あなたに今後出会えることを願っています。

[1] ここでいう「異なる立場 […]手をつなぐこと」とは、性別と労働問題、性別と環境といったテーマのインターセクショナリティのほか、行動主体同士の間に生まれた越境や共感、連帯をも指します。(王笑哲《中国大陆性别平等与行动策略——近年来的一些思考》 )https://matters.town/@xiaozhewang/421040-%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%A4%A7%E9%99%86%E6%80%A7%E5%88%AB%E5%B9%B3%E7%AD%89%E4%B8%8E%E8%A1%8C%E5%8A%A8%E7%AD%96%E7%95%A5-%E8%BF%91%E5%B9%B4%E6%9D%A5%E7%9A%84%E4%B8%80%E4%BA%9B%E6%80%9D%E8%80%83-bafybeidgglqcbl6zwkrfysspdhpttov73tg6taxyzppupccph7fnv7kitq

[2] 後になって、PENLIGHT~ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会のメンバーも参加していたことを知りました。

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